広告効果測定の古典的名著「DAGMAR」からマーケティングを学ぼう

今回は、広告業界で長く読み継がれている古典的名著「目標による広告管理(Defining Advertising Goals for Measured Advertising Results、通称 ”DAGMAR本” )」を取り上げます。

 

[Defining Advertising Goals for Measured Advertising Results ] Russell H. Colley著

[Defining Advertising Goals for Measured Advertising Results ] Russell H. Colley著

 

1961年、全米広告主協会(ANA)が刊行した“DAGMAR本”は「広告の結果は測定できる」と訴えました。デジタルマーケティング全盛の現在、当たり前過ぎて違和感すら覚えるかもしれません。

しかし、テレビ・新聞が全盛だった約55年前には斬新な提言でした。それまでは、回帰分析やアンケートの回答などを通じて「恐らく広告効果があっただろう」と推測するしかなかったからです。

なぜ ”DAGMAR本” は「できる」と言い切ったのかを調べると、そこには現在のデジタルマーケティングが抱えている大きな課題が浮かび上がってきました。

 

なぜ “DAGMAR本” は「広告の結果は測定できる」と言い切ったのか?

※今からお話する内容は、インターネットが無かった時代の話です。したがって、広告という表現が随所に出ますが、今で言うところのオフライン系広告を指します。

そもそも「広告」は何のために行うのでしょうか。

 

多くのマーケッターが「(ユーザーに商品の存在を知って貰い)売上を増やすため」と答えると思います。しかし ”DAGMAR本” は「それはマーケティング目標であって、広告目標ではない」と説明します。

かつてドラッカーは「マーケティングとは販売を不要にすること(売る努力をしなくても顧客自ら買ってくれるようにすること)」と言いました。

「広告」はドラッカーの言う「顧客自ら買ってくれるようにする」ための手段の1つに過ぎない、というのが “DAGMAR本” の考え方です。

つまり、料理を仕上げるための調味料の1つに過ぎない(ただし味の方向性を左右する重要な調味料ではある)、という前提に立って考える必要があります。

 

図1:広告とはマーケティングのための手段に過ぎない

図1:広告とはマーケティングのための手段に過ぎない

 

“DAGMAR本” では広告を行う理由を「トータルのマーケティング目標を達成するための、特定要素に対する貢献」であり、広告効果測定とは「貢献度の測定」であると定義しています。

デジタルマーケティングでもKGI達成のためにKPIが設けられ、KPIの進捗を管理するためにアクセス解析や効果測定などのツールがありますが、全く同じことだと言えそうです。

 

では、広告が貢献できる要素とは何でしょうか。

“DAGMAR本” では「コミュニケーション」だと定義しています。

「定められた対象の範囲で、定められた程度に、定められた期間にわたって達成させる」ことが広告の能力であり、どのようなメッセージを伝え、実際に伝わったか?覚えてもらったか?について測定すべきだと “DAGMAR本” は説きます。

つまり、マーケティングに紐付く様々な手法とは完全に切り離して考え、広告が達成可能な固有な仕事を持つことで、広告の結果は測定できると言えるようになるわけです。

 

例えば“DAGMAR本” では、商品の認知度を30%から70%に上げる、キャッチコピーによる想起率を50%から80%に上げるなどが紹介されています。

確かに、これは「コミュニケーション」の力ですし、アンケート等の手法を用いて効果を測定できます。だから “DAGMAR本” では「広告の結果は測定できる」と謳ったわけです。

 

なぜ売上を広告の仕事の尺度として捉えてはいけないのか?

“DAGMAR本” によると、マーケティングリサーチの大家と呼ばれるアルフレッド・ポーリッツは「購入は広告の究極の目的ではあるが、購入行動は全くの物理的な行動である。これに対して、広告の効果は心理的な現象である」という言葉を残しているそうです。

この言葉を引用して、広告と売上高の間に直接の因果関係があると見るのは早計、というのが “DAGMAR本” の立ち位置です。

ただし、広告が唯一の変数であったり、マーケティング要素でほぼ全部を占めていたり、広告そのものが直接の結果を求めていたり(ダイレクトマーケティングなど)すれば話は別です。むしろ因果関係がなければならないはずです。

そうで無い場合、変化する経済情勢、政治事件、季節要因、ブランドイメージ、競合動向、その時の値段など、様々な要素が噛み合って、購買行動にいたるはずです。

 

そのことを “DAGMAR本” では次のような絵で表現します。

 

図2:購買行動に至るまでには様々な因果関係が存在する

図2:購買行動に至るまでには様々な因果関係が存在する

 

“DAGMAR本” が繰り返し訴えるのは、広告は売上を達成するために混ぜ合わせなければならない要素の1つであり、その他様々な部署と連動して機能することで顕著な結果をあげる、ということです。

 

デジタルマーケティング時代の効果測定は “DAGMAR本” をどのように受け止めるべきか?

Cookieやアクセスログをベースに広告効果測定が行う現在、 “DAGMAR本” に書かれている内容がそのまま当てはまるとは思いません。

まず、オフライン系より手軽に始められるデジタルマーケティングの場合、マーケティング施策の大半が広告かSEOのみというケースが多く、 “DAGMAR本” に書かれた「広告が唯一の変数であったり、マーケティング要素でほぼ全部を占めていたり」が殆どだと思われます。

さらにデジタルマーケティングは購買に一番(距離的にも時間的にも)近い広告施策で、かつ広告をクリックしたという「物理的な行動」を記録することができる点も、今までとは大きく違う点です。

だからこそ広告の直接効果やアトリビューションの結果をもとにカイゼンすれば、より良い成果が出たのだと思われます。

 

一方、昨今注目を集めているコンテンツマーケティングやネイティブ広告などの一般的な広告には当てはまらない、 “DAGMAR本” に書かれていた時代の手法が、インターネット上でも活発になっています。

さらにオフラインとオンラインを跨がった広告効果最大化を図るために、双領域が与え合う影響の可視化は喫緊の課題です。もはやオンラインの中での最適化は、全体で見れば部分最適と言われています。

広告効果を、売上(CV、CPA)だけに求めるには難しい時代になっているのも、また事実です。

 

例えばDSP等の広告配信はいままで「ビュースルー」という測定方法がありましたが、インターネットリサーチを通じた認知率・想起率の向上を評価基準にしたほうが、効果はより解りやすいかもしれません。

例えばオフラインがオンラインに与えている影響の可視化はいままで相関係数の算出や検索量、CV時のアンケートという測定方法がありましたが、可視化をサービスで提供している企業に依頼したほうが早いかもしれません。

デジタルマーケティングの広告効果が、EC上での購買行動に止まらず、ユーザーに何らかの能動的なアクションを起こさせることに求められるこの時代。

今までの手法に何かプラスαをすることで、より測定の幅を深めることが求められていると思います。